腸内フローラと病気について 横関明男

今回は、先日院内研修会でお話しした腸内フローラと病気についてご紹介いたします。

【今、腸内フローラが話題です!】

「腸内フローラ」って、ご存じでしょうか。最近、医学の分野で話題のキーワードの一つです。2015年のNHKスペシャルでも放映されておりご覧になった方もおられるのではないかと思います。また腸内フローラに関する研究は、医学の研究分野でもNature(英国の科学雑誌、世界で最も権威のあるジャーナルです)やNature medicine(前述の姉妹紙)というトップジャーナルでも論文が報告されており、世界中の研究者も注目している分野です。

【「腸内フローラ」とは腸内で共存している細菌の集団です】

人間の腸の中には、多数の細菌が住んでいます。これらの細菌は、専門的な言い方をすると「常在菌(じょうざいきん)」といいます。つまり、体の中にいますが、病気の原因となる細菌とは異なります (病気の原因となる細菌は、病原菌といいます) 。この腸内に住んでいる細菌達を、腸内フローラといいます。

【大腸には、100兆個の細菌がいるようです!】

腸内には、多数の細菌が住んでいるといいましたが、どれくらいの数かご存じですか?虫歯を起こす細菌など、細菌の数が多いと言われている口の中は100億、一方、大腸は100兆と推定されています!人間の体の細胞をすべて合わせると60兆と言われており、大腸の中の細菌の数は、人間の体の細胞数より多いということです(腸の中に、もう1人住んでいる!?)。

【なぜ今、腸内フローラに注目が集まっているのか?】

腸の中に細菌が多数存在していることは、昔から分かっておりました。しかし、以前はそれを詳細に調べる方法が十分に確立しておりませんでした。通常、細菌の研究では、細菌を1個、1個分離して細菌の種類を同定します。しかしそれでは、100兆の細菌の研究は現実的には不可能です。

その解析を可能としたのが、遺伝子検査で用いられる「シークエンサー」です。シークエンサーも以前から存在していましたが、2000年以降シークエンサーの機能は飛躍的に進歩し、現在では1人の遺伝子の全配列の決定も数日で可能なくらい、能力が飛躍的に進歩しています(以前は、ヒトの全遺伝子の解析には数年が必要、さらに前には世界中の研究者が分担して解析するという時代がありました)。

腸内フローラの解析でも、このシークエンサーを用いて、細菌の同定が可能となり、この数年いろんなことが明らかになってきました。

【腸内フローラは、臓器の一部である!?】

大腸には100兆個もいる腸内フローラですが、人体に対して様々な役割をしていることが明らかになっています。その一つが、腸内フローラが腸内に住み着くことにより、外からの病原菌の侵入を押さえる役割があります(これは、比較的昔から知られています)。また、近年ではそれだけでなく、腸内フローラが様々な物質を産生し、それが人体の健康に大きな影響を与えていることが分かりました。

【腸内フローラは、病気発症にも関係しています】

また、腸内フローラが産生する物質によっては、病気の発症に影響することも分かってきました。その例が、動脈硬化と腸内フローラの関係です。この詳細は、Nature medicineに報告されています。概略は、肉や卵、チーズに含まれるフォスファチジルコリンという物質を多く摂取すると、それを腸内細菌が代謝し、その代謝産物をされに肝臓で代謝することによりトリメチルアミン-N-オキシドという物質になり、これが動脈硬化を悪化させるというものです。

このようなことが、動脈硬化だけでなく、クローン病(炎症性腸疾患の一種、近年増加傾向)、糖尿病さらには精神、神経疾患にも影響を与えているという報告もあります。これらが解明されると、将来は腸内フローラを整えることが、病気の治療や予防に繋がるのかもしれませんね。

【腸内フローラを大切に!】

健康な腸内フローラの維持は、健康の維持にも有用であると思います。さて、どのようにすれば健康維持に結びつく腸内フローラの維持ができるのでしょうか?それは、まだよく分かっていません。ここから先は私の個人的な考えですが、腸内フローラは、フローラを構成する細菌のバランスが重要なのだと思っています。つまり、ある善玉菌だけを増やせばいいというものではないということです。ですから、腸内フローラの維持に欠かせない食事も、いろんなものをバランスよくとり、便通を整えることが大切なのではないかと考えております。このあたりも、今後いろんな報告があると思いますので、注目していきたいと思います。