野球で速い球を投げるコツ 青木賢樹

まずは、平成28年4月14日に発生した熊本地域の地震について、大変な出来事であり、まだまだ余震が続いており、心より哀悼の意を表し、お見舞い申し上げたいと思います。新潟も12年前の平成16年10月23日、新潟県中越地方を震源として発生したM6.8の中越地震がありました。当時は自分もまだ富山県立中央病院に勤務中で、DMAT(災害派遣医療チーム)の前の時代で、気持ちだけのような感じですが、それでも県からの医師として新潟県十日町市に派遣されました。被災地の大変さを感じ、避難先の体育館で生活される方々の苦労や、地震の余震ですら地鳴りがして怖かった思いなどが甦ってきました。くれぐれも、体調に留意され、安全に避難され、早く地震が収まることをお祈りしております。また通常の生活に戻るには、たくさんの時間がかかると思います。どうぞご自愛ください。

話は変わりますが、やっと春になり、気候が穏やかになり、世間では桜も咲き、野球好きには、待ちどおしい気節がやってきました。4月には既に春の選抜高校野球大会が終わり、今は夏の甲子園の予選会のシード権をもらうための春の大会に向けて、各高校球児たちは練習に勤しんでいるに違いありません。九州地区は大会が延長されたようです。北信越地域では、長く続いた冬が漸く終わり、春を迎え、新入生も入り、一層気合が入っている頃でありましょう。高校生の野球でだいたい活躍できる時期は、約2年練習した後の2年生の秋(秋季大会=春の選抜高校野球の地区代表を決める大会)から、3年生の夏の甲子園出場を目指して県代表を目指す夏季大会までの、1年間ぐらいしかありません。いつも蝉みたいなものだと思っています。おそらく小学生から野球を始めて、高校生の夏まで野球をする子が多いと思います。その後大学などで野球を続ける子はむしろ少数かもしれません。それでも一生懸命打ち込んでいるのが、周りから見ると愛おしく感じ惹かれていくのでしょう。

今回は、速い球を投げるコツを、医学的に解説したいと考えています。(まあ、嘘かもしれないので、眉唾程度に聞いてください。余り参考にしない方がいいかもしれません。そしてくれぐれも肩、肘、腰など怪我せぬようにしてください。)
高校生でも甲子園へ行くような投手は、野球の球(硬式では約145g)を、ピッチャープレートからホームベースまでの距離(18.44m)を平均時速120-130km/hrぐらいで投げています。プロ野球では、北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手ががんばって投げると160km/hr程度で投げられています。
専門家のいろんな人が、いろいろなことを言っているので、野球のプロでもない自分が言うことでもないとは重々自覚していますが、医学的根拠から見た(気がする)、早く投げるコツを、少しだけ言わせてください。

ここからの話は、右利きのピッチャーでオーバーハンドスロー投げの人を中心にします。サイドスロー、アンダースローは、体の前屈がない分スピードが遅くなると考えています。早い球は、もちろん強い遠心力がついて、腕からボールが放たれる必要があります。遠心力は同じ回転速度なら作用点と起点が長いほど早くなります。つまり手が長い人(=身長が高い人)が有利ではあります。野球のボールを投げるイメージは、おもちゃの「でんでん太鼓」をクルクル回すと紐の付いた球が、太鼓にあたり音がなる、つまり、腰を回転させること(軸を回すこと)が、腕の振りを生み出すのであると言いたいです。高校生の頃は、あまり考えもせず、腕や肩で投げるもんだ、と考えていました。

でんでん太鼓

でんでん太鼓


  1.  まず、野球のピッチャーで投げる時に最初の運動起点になるのは、腰をホームベースに平行の位置から、向き合うようにするまでに回転させ、約90度回すことです。腰は、頑張っても90度ぐらいしか回らないと思われます。無論この時に、利き手の反対の足を前に出す動作が最初に始まります。90度回すことが普通で、それ以上は余り回しすぎると、体が開いてしまうと言えますし、回しにくいです。よほどの筋力があれば別ですが。
  2. 右利きであれば左足を前に出しますが、爪先はホームベースに向かって真っすぐが良いと思われます。平行以外は、体の傾きが一致せず、足の筋力が使いにくいです。真っ直ぐ歩くことが一番人間のしやすい動作であるからです。つまりコントロールがつきやすいと思われます。出す足の幅は、個人の筋力(特に下半身)、柔軟性により決定されます。筋力がないと幅は狭くなります(所謂立ち投げ)が、現時点では自分の筋力に合わせて調節するしかないようです。
  3.  腰の回転中は、主に左足は腰全体を前に引き寄せるイメージで、左足は地面を引っ掻く運動(大腿の後ろの筋肉)、右足は右腰を押し出す運動(大腿の前の筋肉=支える筋肉)、腰は回転するために左の腸腰筋を収縮させる必要があります。最後に、押し出すには足の親指の付け根で押しだすことになります。バランスをとるには足の裏全体が安定しやすいのですが、最後は足の親指で押し出すことになります。いずれにせよ下半身の筋力が非常に必要となります。
  4. その後、腰を回転させながら、腰がホームベースと向き合う前には上半身を前屈(屈曲)させる運動を追加します。柔道の背負い投げのイメージです。この動作は腹筋や背筋が必要となる動作です。これは30度程度でも十分と思いますが、投げた後は90度ぐらいまで上半身を曲げるので股関節周囲の筋力も必要です。回転させた腰を中心に、上半身の屈曲で、体にまとわりつくように、腕を鞭のようにしならせて投げるイメージです。
  5. その後上半身を屈曲しながら、肩から腕を繰り出すのですが、肘を110度程度曲げて肘から折りたたんで小さく出すことが要求されます。腕を振り下ろす筋肉はほとんど必要ないと考えています。肘を曲げた腕を肩の上からひょいと前に振り降ろす感じで、挙げた手を下げるだけと考えています。振り回すのではありません。腕を伸ばして振り回すとスピードがあるかもしれないですが、肘にも負担がかかります。また、腕を出す前に、ボールの握り(球種)などが最後まで見えないように体の後ろ(右横)に隠すことが必要となります。これは、鏡などで手の握りが見えにくい様に練習するしかありません。やってみると案外体の前でボール持っている感じです。前ロッテの村田兆治選手のように、見える人もいますが、見えないことに越したことはないです。
  6. 肘を折りたたんで、小さくして投げますが、肘から先に出して、肘が体の前に10度ぐらい前に来た時にようやく肘を伸ばして、前腕を最後に出していき、30度程度の時に投げていくイメージです。この時、肘に負担がないようにボールを押し出すように、少し曲がって、くの字で直線にならないイメージで投げるのがストレート(直球)です。ゴルフのスイングを上でする様な感じでしょうか?オーバースローでは水平から約45度程度から、60度の角度で投げ下ろすので、ストレートはややシュート回転に近い投げ方にならざるをえません。解説者で、ストレートがシュート回転することを悪く言う人もいますが、違うのじゃないかと思っています。人は、ピッチングマシーンのように90度垂直から投げているわけではないので、斜め45度から60度で球が離れるはずです。因みに真っ直ぐの球がホップすることも力学的にありえないと思っています。上回転(バックスピン)で少しは落ちにくいとは思いますが、落ちていくのが重力です。最後に指からボールを放して投げる動作で投球動作は終了します。人差し指、中指で逆回転(上回転)をつけられるといいですが、あまり気にしてもしょうがありません。大きな大差はないです。前の腰の回転と腹筋の前屈でだいたいの球速は決まってしまいます。指の先の動きの影響はたいしたことはないので、あんまりこだわらないのがいいのではないかと思います。ストレートは、最後は指2本(人差し指と中指)で投げるので、親指は球の下に置き母指の爪の横で持つ方がいいかもしれません。ただし、カーブやシュートなど違う球種の時は別です。
  7. 肩の筋肉は、腕を振り回した時に抜けないぐらいは必要ですが、肩の筋肉だけで早いボールを投げることはありません。短い距離なら腕を振り下ろす動作だけで球を投げられますが、早く強い球を投げることができません。解説者は肩が強いなどとよく言いますが、少し違うんじゃないかと思っています。肩の前胸筋で投げるわけではありません。余り肩の筋肉をつける必要はありません。むしろ腰、大腿、腹筋などの筋肉をつけるべきです。やり投げの選手がやるように、助走を付けて走りながら、横向きになり、最後に腰を回転させて投げるのが、やはり遠くへ投げられる動作だと思います。やり投げでは、遠くへ飛ばすには45度で投げあげるのが一番遠くへ投げられるはずです。
  8. 大事なのは、その一連の動作をスムーズに、流れるように、もっともスピードのロスがないように繋がって投げていくことで、早い球を投げる最後のコツであります。これは練習するしかないと思います。
  9. その後、投球が終わり、動作は慣性の法則で急に止められないので、フォロースルーの動作があり、一連の投球動作は終了します。
  10. カーブ、シュート、フォークボール、スピリット、チェンジアップ、ツーシームなどは、ボールの握りの部分が違うので、参考書、運動の本や先輩からの教えを参考にしてください。同じフォームで投げられると、球種が判りにくく、投手が有利になると思います。ただし同じ投球動作で同じ球種の同じ球筋であれば、やはりさすがに打者が慣れて打てるようになるので、一回一回ごとにコースと球筋が少しでも違う方がいいのですが、通常のカーブやシュートはどうしても同じ球筋になりやすい欠点があります。同じフォームで投げることと、同じ球筋になると打たれやすいのが矛盾点ではあります。その点フォークや、チェンジアップ、ツーシームなどは、投げるときの球の回転によってできる空気抵抗が変化し球筋が一定ではないので、その時その時で球筋が違うと打者は打ちにくいと思います。特に現代野球は、落ちる球が効果的であるようです。コントロールも、同じ動作で同じように投げられる練習と、少し自分が投げたいところと違った時に、ほんの少し投げる位置を補正し修正ができる能力だと思います。
  11. コントロールについてです。ストライクゾーンは、ホームベースの幅(43.2cm程度)の上で、公認野球規則では「打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、ひざ頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間をいう。このストライクゾーンは打者が投球を打つための姿勢で決定されるべきである。」と定めています。膝から胸の高さのだいたい中間程度の間に入れば、ストライクです。審判によって多少の幅があるようですが、敵も味方も同じ条件なのでこだわることはなく、その時の審判に従うしかありません。ストライクは基本的には縦長の長方形なので、手元が少し間違って狂いが生じても有利なのは、やはりオーバースローで投げる方と考えられます。

何回も投げられるようになるには、足、腰、腹の筋肉と一連の動作をスムーズにし、腕が体の回転、前屈に合わせて動かせていけるかどうかと考えています。
ただし、肩はやはり使う回数によって、多く使うと早く壊れる=腱が多量に使用されると、周囲の骨などによって磨耗して薄くなり切れることがあります。(腱板断裂、関節包の破壊など)
肘も野球肘のような骨の異常や、テキサス・レンジャーズのダルビッシュ投手のように内側靭帯の断裂をもたらすと思いますので、余り一生懸命使いすぎないこと、肘や肩は休ませながら使い、少しでも痛いと感じたら休むことが大事です。休むと人間の筋や腱膜は多少は修復してくれるのではないかと思います。早い動作(腕の振り)は、若年でも血行動態にも影響すると思うので、やはり投手に向いていない人もいると思われますので、余り投げない方が良いと思います。怪我のないようにスポーツをしてもらうことが大事でもあり、大人になって、野球を楽しむこともまた、人生を豊かにしてくれます。

最後に、やはり人間が生きていく上では、仲間というのは自分をとりまく環境の重要な要素であります。しかし、人生でも後輩に抜かれるのはよくあることであり、どんなに頑張ってもレギュラーに成れないのも良くあることですが、自分の人生の主人公は自分であり、時間が過ぎると、ライバル、同僚、先輩、後輩はかけがえのない間柄になり、これからの人生を楽しくしてくれるはずです。
また、楽しんで野球をしましょう。もちろん他のスポーツでもいいです。人間は動く動物で、感情もある動物です。人を思いやることや、他のチームも努力していることなど、いろいろ勉強になると思います。

さあ、夏に向けて、皆、頑張りましょう。心から応援しています。そして私は、バックネット裏から、見させていただきます。ちなみに自分は全く体が動きませんのであしからず。せめて、転倒やフレイル(虚弱状態)は予防したいと運動している今日この頃です。

雑文にお付き合いいただきありがとうございました。監督、コーチなどの言うことも少しは聞いて、自分で考えながら練習してください。次回は、バッテイングの話です。(予定は未定)
ちなみに、自分の夢は、高校野球の監督ですが、今ではちゃんとノックもできないので難しいですね。また、球場まで応援に行きたいと思います。今回もお後がよろしいようで。