(自己流)炭水化物制限(ダイエット)の話 青木賢樹

こんにちは。今回は(自己流)運動理論から離れて、(自己流)炭水化物制限(ダイエット)の話をしたいと思います。ただし、真似して実行されるときや、何らかの病気で受診している人は、必ず主治医のご意見を拝聴してから、安全に行ってください。何か異変が起きた時に責任が取れないことが多いので、申し訳ございませんが、そこを理解して読んでいただければ幸いです。それでは炭水化物制限を自分の理解している範囲でご説明したいと思いますが、もし間違っていたら申し訳ございません。さらに詳しい医師(例えば、京都の高尾病院の江部康二先生など)に聞いてみてください。

現在、炭水化物制限(ダイエット)は、色々な雑誌やテレビでも話題になっています。芸能界でも実行している人がたくさんいらっしゃるようです。新聞でも話題になりました。メタボリックシンドロームや肥満、糖尿病にとってインシュリン分泌量、インシュリン抵抗性の話は重要な要素です。ご存知の通りインシュリンは糖の吸収には欠かせないホルモンです。そして炭水化物は消化管で分解され、ブドウ糖となり、体内に吸収され、人間のエネルギー源として大事な栄養素の一つです。

ただし必ずしも必要な栄養素でもないことが最近わかってきました。ブドウ糖が吸収されるメカニズムは、口から入った炭水化物を含んだ食物(特にブドウ糖=砂糖、ご飯、パン、麺類、根菜類の穀物、果物、はちみつ等に多く含まれています。)は、消化酵素で分解され、ブドウ糖(グルコース)となります。ブドウ糖は小腸で速やかに吸収され、まずは肝臓へグルコース輸送体(GLUT2)によって濃度勾配にて取り込まれます。ブドウ糖は、グリコーゲンとして保存(30%)され、そのほかも筋肉に取り込まれます(50%)。筋肉でブドウ糖(グルコース)は、インシュリンとグルコースの筋肉へ運ぶグルコース輸送体(GLUT4)に運ばれ、細胞内へ取り込まれます。この時グルコース輸送体(GLUT4)は細胞内に隠されており、運動することで細胞表面に出現して、グルコースが取り込まれやすくなります。さらに余分なグルコースは、無駄に捨てるにはもったいないのでインシュリンとともに脂肪細胞に同様にグルコース輸送体(GLUT4)を介して、グルコースが取り込まれます。脂肪細胞へは5%程度しか入りませんが、それでも人間は非常時(食事がとれない時)のことを考えているのか、これでもかと一生懸命脂肪細胞へ押し込んでいき、押し込む時にさらにインシュリンが必要(インシュリン抵抗性)となり、肥大した脂肪細胞は、内臓脂肪として蓄え肥満になっていきます。

ここでインシュリンは、グルコースを細胞に取り込む時にしか必要でありません。グルコースは細胞のエネルギー源として大事ですが、グルコースだけがエネルギー源ではなく、たんぱく質からも脂質からもエネルギーが作られます。むしろ脂質の方がエネルギー量は大きい(9/4倍)ので、以前の糖尿病の治療にはカロリー制限が言われていました。糖尿病は、インシュリン抵抗性と相まって、インシュリンの必要量は増大し、徐々に膵臓は疲弊してついには逆にインシュリンの分泌量が低下していきます。引き換えに血中の処理しきれないブドウ糖濃度が上昇し、血糖や血糖の変化物が血管内皮細胞などに障害を与え、心筋梗塞、脳梗塞などいろいろな病気を発症させてしまいます。

医学生の頃に、糖尿病では血糖を下げることが大事と習い、インシュリン分泌をさらに増やす薬や、どうしても分泌不良の時は外からインシュリンを注射することが良い治療法と教わりました。

普通の人は、膵臓から基礎インシュリンがいつも少量分泌され、食後に吸収した糖分の量に応じてインシュリンがさらに追加分泌され、血糖値をある程度一定にコントロールしています。血液内の血糖が高いと赤血球と付着して、グリコヘモグロビン(HbA1c)値として測定され上昇します。糖は正常でもある程度の値で存在するので、6.2%以下は正常です。糖尿病という病気の診断は6.5%以上と言われています。たかだか0.3%の違いで病気との境目と判断されます。ただし、糖尿病予備軍は、もう少し低い値でも病気の一歩手前と考えられているようです。簡単に言うとインシュリンが必要となる場面は、糖が体内に入った時です(たんぱく質由来のアミノ酸から糖が作られる時(糖新生)も厳密には必要です)。

つまり、ブドウ糖が入らなければ、インシュリンが必要な量はぐんと減ります。インシュリンは基礎分泌がある程度は必要なので、全く無しでは生活できません。インシュリンが分泌されない1型糖尿病の人は、必ずインシュリンの最低限の基礎分泌量が必要となります。脳はブドウ糖をエネルギー源としていますが、脳がブドウ糖を利用する時はインシュリンは必要ありません。そして脳はいざという時はケトン体も利用できます。ケトン体は通常は脂肪から生成され、脳内の神経細胞に取り込まれます。つまり脳ではブドウ糖が必ずしも必要ではないようです。小児の病気でケトン食を取ることが治療法になる疾患もあり、ケトン食だけで生活も可能と言われています。また、心臓や四肢の筋肉では普通は脂肪からできた脂肪酸を利用してエネルギーを使っています。激しい運動の時に、短期間のみブドウ糖を利用するようになっています。

現時点で、やや肥満(日本人ではやや肥満でも糖尿病になりやすい)、メタボリックシンドローム、耐糖能の低下している糖尿病予備軍の時にいかにインシュリン抵抗性を減らし、インシュリンを節約して生活していくかが、その後の糖尿病発症を予防すると考えられています。インシュリンはあくまでもブドウ糖に対応するホルモンなので、炭水化物(ブドウ糖)制限をすることがインシュリンの分泌を減らす唯一の方法と思います。ブドウ糖を取らないことがひいては内臓脂肪を増やさないことにもなるので、腹囲が減少してそして体重が減り痩せてくることにつながります。たんぱく質や脂質の利用には、インシュリンはほとんど必要ありません。

簡単に言うと、炭水化物(ブドウ糖)を取らないことが、インシュリンの必要量を減少して、血糖の変動幅も小さく、さらには糖尿病になりにくくなるということです。例えばご飯1杯で、4gの角砂糖18個と同量のブドウ糖を取ったことと同じ計算になるそうです。スパゲッティー1皿も大体18個ぐらいです。6枚切りパンも1枚で8個分です。無論、炭水化物を、全く取らずに0gにすることは難しいです。つまり野菜を食べても、牛乳を飲んでも、多少の炭水化物が入っています。しかし炭水化物を取らない生活は、紀元前の人類誕生時と同じような生活であったろうと推測されます。人類が飢えからの心配から脱却して、大量の人口を養えるようになったのは、古代文明(エジプト、メソポタミア、インダスなど)時代に発祥した米と小麦の栽培が成功したからに他ならないと思います。ある程度の保存も効き、少量の炭水化物で生命維持が可能となったのでした。現代社会では食料は溢れかえっており、コンビニエンスストアもすぐ近くにあり、いつでもお金さえあれば食物が買える時代です。

ただ炭水化物の値段とたんぱく質、脂質のかかる費用は大きく差があり、タンパク質や脂質はお金がかかり、腎機能が低下している人はたんぱく質を多く摂ると腎臓の負荷が大きくなる病態でもありますので、十分な注意が必要です。あとタンパク質(アミノ酸)からエネルギーを使うと体の筋肉も減少してしまうことがあり、充分なたんぱく質の摂取も大事です。それらを注意しながら炭水化物制限をすることが、糖尿病になりにくくなる可能性があると考えています。カロリー制限は、その後いつかは必要とは思いますが、当初は、炭水化物制限のみでも痩せていくと考えています。極端に言うとマヨネーズ(卵や油)はいくら食べてもOKで、ひたすらご飯、パン、麺類、ジャガイモ、かぼちゃ(糖質の多い食物)、砂糖を取らないことです。

今後、さらに研究が進めば、糖尿病の食事治療方法も少しずつ変化していくのではないかと考えています。ただし炭水化物制限を実行する際には、やはり主治医とよく相談して行いましょう。そしてその食事形式は、太りやすい人はおそらく永遠に炭水化物制限を続ける必要があります。時にご褒美として炭水化物を食べることは許されますが、以前のようにご飯、パン、麺類ではまたリバウンドしてしまうものと思います。食後30分後の適度な運動も、筋肉内へブドウ糖を取り込むには必要な運動です。運動しないと筋肉内にブドウ糖を取り込めないからです。さらに筋肉をつけ、鍛えることは老化による廃用症候群、サルコペニア等の予防にもなります。50歳ぐらいから、筋肉は20歳時の90%になっていきます。60歳からはさらに10年で15%づつ低下していきます。筋肉をつけるにはやはり少し辛いぐらいの運動が必要らしいです。50歳の方々は、今から少しずつ運動する習慣をつけないとその後はどんどん低下していきます。老後になっても一人でトイレに行け、自分で日常生活を維持し、自分で歩行ができ、転倒せず、骨折もしないようにするには、50歳ごろからある程度の運動をすることをお勧めします。

さあ皆様、食事の内容の再考(炭水化物を少量にすること)と、自分に合った運動を行ってみましょう。花粉症さえ無ければ、春になり、花見を兼ねて散歩等がまずはよろしいのではないでしょうか。